●宅建業者が自ら売主のときの規制
宅建業法では、宅建業者が「自ら売主」のときは、8つの厳しい規制を設けています。これを8種類規制と言っています。売主は不動産取引のプロですが、買主は何も知らない素人の方がほとんどです。
買主を悪質な宅建業者から保護するために、厳しい規制(8種類規制)を設けています。ただし、宅建業者が自ら売主でも、買主が宅建業者の場合は、8種類規制は適用されません。それでは8種類規制について学習したいと思います。
1つ目●自己所有物件でない場合の契約の制限
市販のテキストでは「自己の所有に属しない物件」という言い方で表現されていますが、これは2つのことを言っています。1つは他人の所有している物と、2つ目は未完成でまだ誰が所有しているかはっきりしていないときです。宅建業法では、宅建業者が自己所有物件でないものを、売却するのを禁止しています。ただし例外があります。
▶︎他人物(他人所有物件)の場合
宅建業者が物件を取得する契約・予約を締結しているときは、売却できます。ただし、停止条件付きの契約の場合は除きます。宅建業者が物件を取得することが明らかな場合で、国土交通省令で定めるときも、売却できます。
▶︎未完成物件の場合
宅建業者が手付金等の保全措置をとったときは、売買契約を締結できます。
※国土交通省令で定めるときとは、土地区画整理事業における保留地について施工者から取得する契約を結んでいるとき、宅地または建物について、宅建業者が買主となる売買契約その他の契約であって、宅地または建物の所有権を宅建業者が指定する者に、移転することを約するものを締結しているときなど
2つ目●クーリング・オフ制度(cooling-off)
かつて、資産価値のない二束三文の土地を、将来有望で資産価値が高いと、ことばたくみに高く売りつける悪質な業者や行為が横行していました。そこで昭和55年、宅建業法はクーリング・オフ制度を導入し、消費者の保護を決めました。このクーリング・オフ制度は、買主が一定の期間であれば、損害賠償をすることなく契約を解除できるというものです。
▶︎クーリング・オフができる条件、場所
宅建業者が自ら売主となる宅地・建物の売買では、事務所等以外の場所で、買い受け申し込み、売買契約を締結した買主は、書面で申し込み撤回、契約の解除を行うことができます。
[クーリング・オフできる場所]
喫茶店、レストラン、ホテル・旅館の客室、テント張りの案内所、買主の取引銀行の店舗等
▶︎クーリング・オフできなくなる条件、場所
事務所等で買い受けの申し込みをして、事務所等以外の場所で売買契約を締結した買主、クーリング・オフできることを書面で告げられ、告げられた日から起算して8日経過したとき、申込者が宅地・建物の引き渡しを受け、代金全額を支払ったときは、クーリング・オフはできなくなります。
[クーリング・オフができない場所]
○事務所(本店)
○宅建士の設置義務のあるところ
・事務所以外の場所で、継続的に業務を行える場所
・一団の宅地・建物の分譲を行う案内所(土地に定着しているもの)
・宅地・建物の売買契約に関する説明後、宅地・建物関連の展示会、催し等を実施する場所(土地に定着しているもの)
・宅建業者が他の宅建業者に代理・媒介を依頼した場合の上記の3つの場所(土地に定着しているもの)
○買主が自ら申し出た自宅、勤務先
▶︎クーリング・オフの効果
申し込みの撤回や契約の解除は、書面を発したときに効力が生じます。これを発信主義といいます。クーリング・オフをされたとき、宅建業者は違約金の支払い、損害賠償は請求できません。そして手付金、その他の金銭をすみやかに返還しなければなりません。またクーリング・オフの規定に反する特約で、申込者に不利なものは無効となります。
3つ目●損害賠償額の予定の制限
宅建業法では、宅建業者との間で不当に多額の賠償額を取り決め、消費者の利益が害されることがないようにするために、賠償額に制限を設けています。宅建業者は自ら売主となる売買契約で、買主が約束を破り、契約の解除によって、損害賠償を求める時に、賠償額、違約金を取り決めるときは、これらの合算した額が代金の額の10分の2を超える取り決めをしてはいけません。10分の2を超えるような特約は、10分の2を超える金額のみ無効です。

例えば代金が2,500万円とします。
宅建業者と買主の間で600万円を損害賠償額または違約金と決めた場合、10分の2は500万円ですから、600万円は宅建業法の規定では制限の額を100万円超えていますので、100万円は無効となります。500万円が買主が支払う額となります。
4つ目●手付金の制限
宅建業法では、宅建業者が自ら売主となる場合は、手付金の目的は解約手付とみなされます。宅建業者または買主の一方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄し、売主(宅建業者等)は手付金の2倍の金額を支払うことにより、契約を解除できます。そして買主に不利な特約は無効になります。当然、有利な特約は有効です。
手付金の額は、代金の10分の2を超えてはならないと規定されています。
5つ目●手付金等の保全

この間に、宅建業者が倒産してしまったら、買主は泣き寝入りしてしまうのでしょうか。登記の移転がされていない状態だと、取引した不動産物件の所有権も主張できないことになります。このような場合、宅建業法では買主を保護するため、手付金、中間金を確実に取り戻すことを考慮し、手付金等の保全措置の制度を設けました。
▶︎手付金等の保全措置
宅建業者は自ら売主となる売買契約の場合、手付金等の保全措置をした後でなければ、手付金等を買主から受領してはいけません。
ただし保全措置をとる必要がない場合があります。売買された物件が買主へ移転登記されたとき、または買主が所有権の登記をしたときは、必要ありません。さらに受領しようとする手付金の金額が、未完成物件の場合は代金の5%以下で、かつ1,000万円以下のとき、完成物件の場合は代金の10%以下で、かつ1,000万円以下のときも必要ありません。
※手付金とは、売買、請負、貸借などの契約締結の際、その履行の保証として 買主や注文主から相手方に交付する金銭
▶︎手付金等の保全措置の方法
未完成物件と完成物件で少し違いがあります。両方に共通な保全措置は、銀行等による連帯保証、保険会社による保証保険の2つがあります。完成物件には、さらに指定保管機関による保管が追加されています。保全措置は手付金等として交付された金銭の全額について行われます。売主(宅建業者)が、保全措置を必要としているのに、行わなかった場合は、買主は手付金等の支払いを拒絶できます。
宅建業者は銀行と、将来発生するかもしれない手付金等の返還債務の弁済を保証する保証委託契約を締結します。次に宅建業者は、銀行が受け取る手付金等の返還債務を連帯して保証することを約束した書面を、買主に渡します。
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○保険会社による保証保険
宅建業者は保険会社と、宅建業者が受領した手付金等の返還債務の不履行により、買主におよぼした損害の中で、手付金等相当額を保険会社が穴埋めすることを約束した保証保険契約を締結し、買主に保険証書を渡します。
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○指定保管機関による保管
宅建業者は買主から手付金等を受領する前に、指定保管機関に手付金等を受領させることとします。そして引き渡しまでに間に、手付金等相当額の保管を約束する契約を締結し、これを証明する書面を交付します。宅建業者は、手付金等を受領する前に、手付金等寄託契約に基づく寄託金の返還を目的とする債権について質権を設定する契約を買主と締結し、これを証明する書面を買主に渡します。
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6つ目●瑕疵担保責任の特約の制限
民法では、不動産物件を買ったけれども、簡単には発見することができない 瑕疵(欠陥)があった場合、売主は買主に損害賠償等の責任を負わなければなりません。ただし特約で内容を変更することが認められています。売主が損害賠償等の責任を一切負わないという特約をした場合、買主が不利益をこうむることも出てきます。そこで宅建業法では、買主を保護するために、損害賠償責任に関する特約に制限を設けました。ここで損害賠償の責任を瑕疵担保責任、発見が難しい欠陥を隠れた瑕疵といいます。
▶︎瑕疵担保責任の特約の制限
宅建業者は自ら売主となる売買契約で、瑕疵担保責任について、民法の規定より買主に不利なる特約をしてはいけません。ただし担保責任の期日は、引き渡しの日から2年以上とすることはかまいません。これまでの事柄に反する特約は無効となります。そして特約が無効のときは、民法の規定が適用されることになります。ここでまた民法がでてきました。
民法の瑕疵担保責任は下記の内容になります。
○売買の物件に隠れた瑕疵があった場合、責任を追求できます。
○売主は瑕疵が発見されたとき、故意、過失がなくても責任を負います。これを無過失責任といいます。
○損害賠償と契約解除。ただし解除は契約の目的が達成できないときに限ります。
○買主は善意、無過失のときだけ責任を追求できます。
○責任の追求は瑕疵を発見したときから1年間有効です。
※故意とは、わざとすること
※善意とは、ここでは法律用語で使われています。ある事実を知らないで行うことをいいます

7つ目●割賦販売契約の解除等の制限
不動産取引では、土地や建物の割賦販売がよく行われています。買主が支払いをできなくなった場合、売主はすぐ契約解除や残金の一括請求ができるのであれば、買主にはあまりにも酷です。宅建業法では、買主を保護保護するため、割賦販売契約の解除等に関して、制限を設けました。
宅建業者は自ら売主となって宅地・建物の割賦販売の契約をした場合、買主が割賦販売の支払いを滞ったとき、30日以上の相当の期間を定めて、支払いを書面で催告し、その期間に支払いが行われなかったときでなければ、契約を解除したり、残代金の一括請求をすることができません。この定めに反する特約は無効となります。
※催告とは、相手方に対して一定の行為を請求すること
※割賦販売とは、代金の全額または一部を、物件の引き渡し後1年以上の期間、かつ2回以上に分割して受領することを条件として販売すること

8つ目●割賦販売の所有権留保等の禁止
所有権留保とは、買主が代金を支払うまでは、物件の所有権を売主のままにしておく、というものです。当然、登記の移転は行われず、宅建業者(売主)の名義のままになっている状態です。悪質な宅建業者は、二重売買を行う危険性も考えられます。そこで宅建業法では、買主(消費者)の保護のために、原則、所有権留保を禁止しています。さらにこの法律の抜け穴の手段になる譲渡担保も禁止です。
※譲渡担保とは、債権担保の目的で宅地・建物の所有権を債権者(売主)に移転すること
▶︎所有権留保等の禁止
もう一度解説しますが、宅建業法では、所有権留保は原則、禁止しています。宅建業者は、自ら売主として、宅地・建物の割賦販売、提携ローン付売買を行ったときは、物件を買主に引き渡すまでに、登記等の売主の義務を履行しなければなりません。これは売主の二重譲渡や売主の債権者による差し押さえられることがあるかも知れないからです。
ただし例外が2つあります。
○代金の10分の3以下の金額を宅建業者が受け取っている場合です。金額が少ない場合は売主である宅建業者も損をしかねません。それで例外的に所有権留保を認めています。
○受け取っている代金が10分の3を超えている場合であっても、買主が担保を設定しない、または設定できないときは、逆に宅建業者を守るために、所有権留保が認められています。
※担保=抵当権の設定、保証人を立てる等

