宅建士英文タイトル

LESSON32 担保物権(1)

不動産の売買契約でよく出てくる担保物権について学習します。
試験では抵当権が重要ポイントになります。

HOME | Les32

●担保物権とは
 債権の担保を目的とする物権で、民法上では留置権、先取特権、質権、抵当権の4種類あります。
 例えば、マンションを買う場合、資金が足りないので、銀行から購入資金を借りたりします。その場合、銀行から担保を求められます。会社員などは購入するマンションを担保にしてお金を借ります。マンションを担保に入れる場合は、抵当権という物権を設定することになります。このような物権を担保物権といいます。

○留置権とは、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置(物などを一定の支配下に置くこと)する権利
○先取特権とは、法律に決められた特殊の債権を持つ者が、他の債権者より優先的に債務者の特定の財産から弁済を受ける担保物権
○質権とは、物権のひとつ、債務の弁済があるまで物を留置し、弁済のないときは、競売して優先弁済を受ける担保物権
○抵当権とは、債権者が自己に引き渡されないままで債務の担保として設定された不動産等につき、優先して自己の債権の弁済を受ける権利

 
 
 
 
 
 
 

担保物権4種

●担保物権の性質
 債権を担保するために担保物権を設定します。その共通の性質には付従性、不可分性、随伴性、物上代位性の4種類があります。
○付従性
 担保物権は債権があって初めて成立します。債権は弁済でなくなれば、担保物権も消滅するという性質のものです。その後に、抵当権登記の抹消ができます。判例では、債務の弁済と抵当権登記の抹消は、同時履行の関係にはありません。
 担保される債権を被担保債権といいます。
○不可分性
 債権の全額弁済まで、担保の目的物の全部について、担保物件が存続するという性質のことです。
○随伴性(ずいはんせい)
 債権が移転すると、それに伴って担保物権も移転するという性質のことです。
○物上代位性
 担保にするものがなくなった場合、発生する請求権(売買代金請求権、賃料請求権など)に対して、担保の効力が及びます。

 例えば、AはBに2,000万円を貸しました。その貸金債権の担保としてBの火災保険付きの家に抵当権の設定を受けました。ところがBの家が火事で焼失してしまいました。この場合、Aは抵当権者として、Bの取得する火災保険請求権に対して、抵当権の効力を主張し、火災保険金から優先弁済を受けることができます。Aは保険金がBに支払われる前に差し押さえることが必要です。


●担保物権の対抗要件
 担保物権は留置権を除き、登記がないと第三者に対抗できません。
例えば、AはBに3,000万円を貸しました。その担保としてBの所有している土地に抵当権の設定を受けました。しばらくして、Bは土地をCに売却し、Cが所有しています。土地はCのものになりましたが、抵当権は土地に効力が及んでいますので、抵当権設定の登記がされていれば、Aは抵当権を実行できます。Bが弁済できなくてもAは貸金債権を回収できます。


●抵当権
 債権者が債務者または物上保証人から、占有を移さないで提供された物を、債務の弁済がないときに、提供された物を競売して、弁済を優先的に受ける権利を抵当権といいます。抵当権は、債権者(抵当権者)と債務者または物上保証人(抵当権設定者)との合意だけで成立します。不動産、地上権、永小作権が抵当権の目的物になります。
※物上保証人とは、他人の債務のために自分の特定の財産を担保に提供した人のことをいいます

抵当権の設定:例1
 例えば、BはAから5,000万円を借りたいので、担保にBの住んでいる家と土地を担保に差し出しました。AはBの家と土地の抵当権の設定を受けました。BはAから5,000万円を借りていますが、引き続き家に住みつづけることができます。Bが5,000万円を返済できなくなったら、どうなるでしょうか。
 AはBが担保に差し出した家と土地を強制的に競売し、その競売代金から優先して5,000万円を返してもらうことができます。

抵当権1

抵当権の設定 例:2
 担保物を差し出す人は債務者である必要はありません。Aから5,000万円を借りたいので、Bは自分の親であるCに担保をお願いしました。CはAに担保として土地と家を差し出しました。このようなCの立場を物上保証人といいます。

Bが5,000万円を返済できないときは、Bの親Cの土地と家が競売にかけられ、Aは競売代金から優先して5,000万円を返済してもらうことができます。

抵当権2

●抵当権の性質
担保物権の性質と共通です。ここでは抵当権について具体的に解説します。
○抵当権の付従性
 AはBに500万円を貸し、Bの家を抵当にとりました。

もしBが未成年者の場合、500万円の借金の契約を取り消すと、Aの抵当権は被担保債権がなくなり、それに従って抵当権も消滅するという性質のことを付従性といいます。 


○抵当権の随伴性
 AはBに対して債権を持っています。債権を担保するためにBの家と土地を抵当にとりました。その後、Aは債権をCに譲渡しました。それに伴って抵当権もCのBに対する債権を担保することになります。

このように被担保債権が譲渡されると、抵当権もそれに伴って移動する性質を随伴性といいます。

随伴性

○抵当権の不可分性
 AはBに5,000万円を貸し付け、Bの土地と家を抵当にとりました。その後、Bは4,500万円を弁済しました。残り500万円が弁済されておりません。Aは500万円を回収するために、Bの土地と家を競売して競売代金の中から、優先して500万円を回収することになります。

このように被担保債権の全額が弁済されない限り、目的物全部の上に権利を行使できる抵当権の性質を不可分性といいます。

不可分性

○抵当権の物上代位性
 AはBに5,000万円を貸し、Bは担保に家を差し出しました。Bは家に保険会社Cの火災保険をつけていました。BはAに弁済する前に、家が火事で消失してしまいましたがBは火災保険をかけていましたので、保険金請求権が発生します。これは家の価値が保険請求権に姿を変えたものと判断されます。

 抵当権はこの保険請求権に効力がおよび、Aは保険金から5,000万円の弁済を受けることができます。このような性質を物上代位性といいます。ただし物上代位権を行使するためには、Bに保険金が払われる前に、Aは差し押さえをしなければなりません。
※物上代位の目的となるものには、売買代金請求権、賃料債権、保険金請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権などがあります。

物上代位1

 では賃料の場合はどうでしょうか。
AはBに対する債権を担保するため、Bの不動産に抵当権の設定を受け、登記した後、Bは不動産をCに賃貸しました。しばらくして、BのCに対する賃料債権が第三者Dに譲渡されました。

抵当権者AはDに賃料が弁済される前であれば、賃料債権を差し押さえをして、Dに優先して賃料から債権の弁済を受けることができます。

物上代位2

●担保される債権の範囲
 抵当権をつけられた不動産は抵当権者が一人とは限りません。1番抵当権者、2番抵当権者、3番抵当権者というように数人の場合もあります。1番抵当権者だけが債権を回収できるのであれば、第2順位以下の抵当権は無意味ということになりかねません。民法では第2順位以下の抵当権者等を保護するために被担保債権の範囲を定めています。元本のほか、利息その他の定期金、損害金などにつき、最後の2年分についてのみ、優先的に弁済を受けることができます。ただし、後順位抵当権者などがいないときは、2年分に限定されません。

 具体例で解説します。
AはBに5,000万円を貸し、Bの不動産に抵当権をつけました。他に2番と3番の抵当権者がいるものとします。Aの貸した5,000万円には年10%の利息がついています。 Bは利息をまったく支払わないで5年経過しました。Bは期限に弁済しなかったので、不動産は競売され、8,000万円で売れたとします。この場合、Aは元本5,000万円と利息2年分1,000万円、合計6,000万円を回収できます。2番抵当権者、3番抵当権者は残りの2,000万円から弁済を受けることができます。

債権の範囲

●抵当権の効力のおよぶ目的物の範囲
 抵当権の効力は、目的物の不動産に付加して一体となっている物(付加一体物)におよびます。また、抵当権設定当時に存在していた従物にもおよびます。
○土地と建物
 土地と建物は別個の不動産ですから、土地に抵当権を設定した場合は、建物には抵当権の効力はおよびません。土地しか競売に出せないということです。
○付加一体物
 不動産に付加して一体となった物をいいます。増築部分、土地上の樹木・石垣・庭石等です。建物の中にあるソファ、TVなどは除外されます。
 抵当権設定当時に存在していた従物とは、物置小屋、取り外しのできる庭石、石灯籠などをいいます。

ただし、抵当権設定後の従物にはおよびません。土地を借りて土地の上に建物を建てたとき、建物に抵当権が設定されると、抵当権設定当時にあった賃借権などの土地利用権に対しても、抵当権の効力がおよびます。
○天然果実・法定果実
 抵当権は担保する債権につき、不履行があったときは、後に発生した抵当不動産の果実におよぶとされています。この果実には、天然果実のほか、法定果実も含まれます。
※天然果実とは、物の用途に従って直接に収取する産出物、牛乳、鉱物、果物などをいいます
※法定果実とは、物の使用の対価として受ける金銭、その他の物。賃料、利息、小作料等をいいます


cowgirl
抵当権を学習すると、貸したお金を回収するのは大変であることがよくわかります。また同じく借りたお金を弁済するのもさらに大変であることがここでわかると思います。次はLESSON33 担保物権(2)です。