●法定地上権
言葉に解説をしてもわかりづらいので、具体例から始めます。
AはBに5,000万円を貸し、Bは担保として自分の土地に抵当権を設定しました。抵当権を設定した当時は、土地にはBの建物があり、Bは住んでいました。しかし、Bは5,000万円を返済しないので、 Aは抵当権を実行して、Cが土地を競落した場合、CはBに対して建物を取り壊して、土地から出て行くように請求してきたとき、Bは出て行くしかないのでしょうか。
これではBはかわいそうです。建物を取り壊すと、国家の損失にもなります。民法ではこのような場合、社会経済上お不利益を防止するために、Bの建物のために土地の利用権が成立するものとしています。これを法定地上権といいます。

●法定地上権の成立
法定地上権が成立するためには、3つの要件すべてを満たす必要があります。
○抵当権設定当時、土地の上に建物が存在していた
○抵当権設定当時、同一人が土地と建物を所有していた
○土地か建物の一方、または両方に抵当権が設定され、抵当権の実行により土地と建物が別の所有者のものとなった
※更地に抵当権が設定されたときは法定地上権は成立しません

●一括競売
更地に抵当権を設定したあとに、抵当権設定者が家を建てたとき、土地のみ競売に出しました。土地の上に家が建っているので、買い手がつかないかもしれません。価格も下がる可能性があります。このような場合、民法では抵当権者の利益を考慮
して、土地に抵当権を設定した当時は更地で、その後建物が建てられた場合は、土地と建物を一括して競売にかけることができるとしています。これを一括競売と言います。建物を建てるのは第三者でもよいとされています。しかし抵当権者に対抗できる権利を持っているときは一括競売の対象にはなりません。

●一括競売の要件
一括競売が成立するには必要な条件があります。
○土地に抵当権設定後にその土地が建てられた
○建物の所有者が抵当地を占有していることに、抵当権者に対抗できる権利を持っていること
※一括競売は土地に設定された抵当権の効力は建物に及ぶわけではありません。土地の抵当権者が競売代金から優先的に弁済を受けるのは、あくまで土地の代金からです。建物の代金からは優先的に弁済は受けられません。
具体例で解説します。
AはBの所有する土地に抵当権の設定を受けました。そしてこれを登記しました。その後BはCに賃貸し、その土地にCは家を建てました。この場合、Cの賃借権は抵当権者Aに対抗できません。この場合、AはBの土地とCの家を一括して競売にかけることができます。

●抵当権と賃貸借
建物を借りている人は、抵当権者が競売をして買受人に所有が変わり、突然出て行ってくれといわれても困ります。抵当権設定登記後に設定された賃借権は、期間の長短を問わず、対抗要件を備えていても抵当権者、買受人に原則、対抗できません。
賃借人が突然に買受人から建物を明け渡すように求められることは、生活の基盤を失い、極めて酷といえます。そこで民法では、抵当権に対抗できない建物賃借人等の明け渡し猶予制度を規定しました。
○抵当権者に対抗することができない賃貸借によって、競売手続きの開始前から建物を使用または収益をする者等(抵当建物使用者)は、建物の競売の場合に、買受人が買い受けたときから6か月を経過するまでは、建物を買受人に引き渡さなくてともよいとされています。ただし、引き渡し猶予期間中の1か月分以上の使用の対価について、買受人が建物使用者(賃借人)に対して、相当の期間を定めて支払いを催告したにもかかわらず、抵当期間内に支払わないときは、買い受けのときから6か月を経過しなくても、ただちに明け渡しを請求できます。

○抵当権者の同意による賃貸借の対効力
賃貸借が抵当権者に対抗できる場合があります。登記した賃貸借であり、賃貸借の登記前に登記したすべての抵当権者が同意し、かつ同意の登記があるときは、同意した抵当権者や競売
による買受人に対抗することができます。ただ、抵当権者がこの同意をするには、不利益を受ける者の承諾を得る必要があります。
●抵当権消滅請求
抵当権のついている土地・建物を購入した人(第三取得者)は、抵当権を実行され、所有権を失うおそれがある立場にあるといえます。そこで抵当権者に一定のお金を支払い、抵当権を消滅させる請求をすることができます。ただし、主たる債務者、保証人およびこれらの相続人などは、抵当権消滅請求をすることはできません。
これはこれらの人は債務を全額支払う義務があるからです。注意しなければならないのは、第三取得者は抵当権の実行による競売の差し押さえの効力発生前に抵当権消滅請求をしなければなりません。
●代価弁済
抵当権者が第三取得者に対して売買代金(代価)を請求して、第三取得者がこれに応じて弁済することで、抵当権が第三者のために消滅するというものを代価弁済と言います。
●共同抵当
同一の債権の担保として数個の不動産の上に設定された抵当権を共同抵当といいます。
例えば、AはBに6,500万円の貸し付けをする場合、Bの土地は5,000万円の価値で担保としては不足ですので、家も抵当にとりました。これが共同抵当です。家と土地で価値は8,000万円になりますので、6,500万円の担保としては満たすことになります。
●根抵当権(ねていとうけん)
継続して行われる取引から生じる多数の債権につき、あらかじめ一定の限度額(極度額)を定めておき、その範囲の中で将来確定する債券額を担保する抵当権を根抵当権といいます。根抵当権は、弁済によって被担保債権がなくなっても、根抵当権が消滅することはありません。
根抵当権は何度も取引が行われるので、元本は一定していませんが、いつかは確定しなければなりません。確定する期日のことを元本確定期日といいます。
元本確定期日は定めても定めなくてもよいとされていますが、定める場合には約定の日から5年以内とされています。
定められていない場合は、根抵当権者は根抵当権の設定のときから3年経過後、元本の確定を請求することができ、その請求のときから2週間経過後に元本は確定します。またいつでも元本の確定を請求することができ、この場合は元本は請求のときに確定します。
○被担保債権
根抵当権の被担保債権になることができるのは、一定の範囲の債権(債務者との一定の種類の取引による債権)に限定されます。すべての債権を担保する包括根抵当は認められません。後順位抵当権者の承諾がなくても、被担保債権の範囲は変更できますが、その変更は元本確定前に限られています。元本確定前に個々の被担保債権が譲渡された場合では、根抵当権は随伴しません。

次はLESSON34 担保物権(3)です。